【ある休日のこと】一期一会は突然に

ただただ天気が良いというだけで、私は車に乗り込んだ。

一人ドライブが好きで、時間があるといつもちょっとだけ遠くまで車を走らせる。

人と関わることが苦手ということではないけれど、一人の時間は好きだ。

今日もまた、一人の時間を満喫するためにちょっとだけ遠くに向かう。

 

しばらくのんびりと車を走らせていると、お昼ご飯を食べていないことに気付く。 

お昼ご飯を食べるために、偶然通りかかったお食事処に立ち寄った。

 

お昼の時間はだいぶ過ぎていたが、それでも大繁盛で相席も出るほどの混みようだった。

しばらく待って通されたテーブル席に座り、注文をして食事を待っている間、私は周囲の人の様子をぼんやり眺めた。

家族連れや、お休みの日も働く会社員の人たち、そして女性だけのグループなど、お客様の層は幅広い。

 

「こちらお邪魔していいかしら?」

一人のおばちゃんが、私の向かいの席を指さして訊ねてきた。

「ええ、どうぞどうぞ」

私は笑顔でそう答える。

 

席に座るやいなや、そのおばちゃんはフランクに私に話しかけた。

「一人なの?今日は旅行?」

そういった投げかけから始まり、おばちゃんは何でもズバズバと私に質問してくる。

「結婚してるの?お子さんは?」

年齢を言うと、この手の質問はよく聞かれる。

私は30歳過ぎの年齢でありながら独身。恋人すらここ数年いない。

この質問に引け目を感じなくなったのはほんの最近のこと。

私は仕事や自分一人の時間が大切で、恋愛や結婚に対してあまり関心がない。

それが私だし、何を言われてもそれは変わらないと自分で感じているので、最近は開き直っているのである。

 

「いません」と答えながら、次に言われる言葉は何となく予想がついた。

「そろそろ結婚しなきゃ」とか「結婚と子育ては大事な女性の仕事よ」とか、田舎ほど悪気もなくそう言ってくるのだ。

 

でも、そのおばちゃんから返ってきた言葉は予想外だった。

「わかるわー。私もそうだったもの。あ、過去形じゃなくて現在進行形ね」

照れ笑いをするおばちゃんの顔を、私は思わず静かに見つめた。

「私ね、ここの人間じゃないの。遠くから、一人で移り住んできた人間なのよ。

若いころは本当に仕事人間で、毎日毎日、仕事をしてるか一人で過ごすかの日々だった。

でもふと、仕事がなくなった老後の生活を想像したときに、本当にこれでいいのかと思い始めてね。

思い切って、自分の生き方を変えようって急に思い立ったのよ。

だけど地元にいたら、どんなに頑張っても今の生活は変えられないと思ったから、住む場所も変えてしまおうと思ってここに来た。

今でも独り身だけど、毎日このお店に来て、こうやってあなたに話しかけたように、いろんな人と話して毎日を楽しんでるわ」

おばちゃんは、終始笑顔で楽しそうに話し続けた。

 

「人とのつながりは、何歳からでも作れるものよ。

今でも私は、結婚や子育てとは無縁だし、今後それを求める気持ちも全くないわ。

でもこうやって、たくさんの人とふれあうことが好きで、今は一人の時間と同じくらい好きな時間。

今になって、あまり大切に思ってこなかった地元の友達とも連絡をとりたいって思うようになったわよ」

そう話すおばちゃんの目には、ほんの少しだけ寂しさがにじんでいるように見えた。

 

ご飯を食べ終えて、私はそのおばちゃんとお別れのあいさつをした。

「また会えるといいわね」と言いながら、おばちゃんも私もお互いの連絡先などは聞かなかった。

「出会いはいつでも一期一会。いつでも会えると思うから、人は皆会えた時間を無駄にしてしまうのよね」

そう言ったおばちゃんの言葉に私も納得したから、お互いのことをそれ以上聞かないのが自然な流れに思えた。

 

車に乗った私は、地元の友人から来ていた連絡に返信していないことを思い出した。

私もあのおばちゃんのように、地元の友人をあまり大切にしてこなかった。

それは多分、いつでも会えると思っているところがあったからなのかもしれない。

 

向かう先を変更しよう。

たまには知らない土地ではなくて、よく知っている土地へ向かうのも悪くない。